大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1841号 判決 1982年12月22日

裁判所書記官

物井昭三

本店所在地

東京都千代田区九段北一丁目二番一号

株式会社全国ビル管理経営協会

(右代表者代表取締役黒沼貞治)

本籍

山形県天童市大字老野森一〇番地

住居

東京都千代田区一番町二〇番地一〇 ホーマットイースト六〇四号

会社役員

黒沼貞治

昭和六年一月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社全国ビル管理経営協会を罰金二八〇〇万円に、被告人黒沼貞治を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人黒沼貞治に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社全国ビル管理経営協会(以下「被告会社」という。)は、東京都千代田区九段北一丁目二番一号に本店を置き、ビル管理、経営の指導講習等を目的とする資本金五〇万円の株式会社であり、被告人黒沼貞治は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人黒沼貞治は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、講習料収入及び登録料収入の各一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九三七六万七八八二円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五四年五月三一日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三〇〇三万七四八二円でこれに対する法人税額が一一一三万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一五八二号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三六六二万四三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額二五四九万二〇〇〇円を免れ、

第二  昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九八八六万八四七三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五五年五月三一日、前記麹町税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三七一二万〇〇七二円でこれに対する法人税額が一三〇二万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七七六六万四〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額六四六三万七八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人黒沼貞治の当公判廷における供述

一  被告人黒沼貞治の検察官に対する供述調書四通

一  収税官史の被告人黒沼貞治に対する質問てん末書四通

一  手倉美恵子、石井英次、村田茂及び黒沼富子の検察官に対する各供述調書

一  収税官史の手倉美恵子に対する質問てん末書三通

一  収税官史作成の講習料収入、登録料収入、事業税認定損、貸金利息に関する各調査書一通

一  検察官、被告会社、被告人黒沼貞治及び被告人らの弁護人本間通義作成の合意書面

一  麹町税務署長作成の証明書

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五七年押第一五八二号の1及び2)

(法令の適用)

被告人黒沼貞治の判示各所為は、いずれも、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により、軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人黒沼貞治の判示各所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により、判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金二八〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

被告会社は、全国ビル管理経営協会・全日本不動産管理経営協会及び全国交通損害保険協会の名前で、それぞれ、不動産の管理経営や交通損害保険に関する講習を行い、受講者から受講料を徴収するとともに、登録者から登録料を徴収して、不動産経営管理士あるいは交通損害保険士の名称を与えていたものであるところ、本件は、この被告会社の代表取締役である被告人黒沼において、被告会社の業務に関し、二事業年度にわたり、合計二億二五〇〇万円余の所得を秘匿し、合計九〇〇〇万円余の法人税を免れたという事案で、その所得ほ脱率は約七七パーセント、税ほ脱率は約七八パーセントに及んでいる。被告人黒沼は、本件各犯行の動機として、昭和五四年三月期においては、自己の経営する他の会社の借入金等の返済に迫られていたこと、昭和五五年三月期においては、被告会社の東邦住宅設備(株)に対する約二億円の貸付金が回収不能の状態にあったことを供述するが、これらは、いずれも犯行の動機としては格別斟酌するに値しない(前者にあっては、そもそも返済不能の会社に被告会社の金員を貸し付けること自体が問題であり、また、後者にあっては被告人黒沼の供述によっても、昭和五五年三月二八日にも四三五〇万円を貸し付けており、回収に見切りをつけたのも翌期になってからのことというのである。)。加えて、被告人黒沼は、本件各犯行にあたり、自ら集計表の受講者数、登録者数の改ざんを事務員に指示し、また、正規の精算表等を破棄するなどしており、犯情は悪質である。そもそも、被告人黒沼は、これまでにも被告会社につき税務調査を受け、ずさんな資金管理を指摘されたり、関与税理士の強い勧告があったにも抱らず、金銭出納帳、銀行勘定帳等の帳簿を備え付けようとしなかったものであって、こうした態度が、本件各犯行の遠因をなしていることも看過できない。そして、被告会社はこれまでにも税務調査を受けたことがあり、現在まで修正申告に伴う諸税が完納されておらず、大部分が未納となっていること、被告人黒沼には、昭和五一年に料飲税ほ脱に関する地方税法違反事件について東京都主税局査察史員の捜索を受けた際、同史員に対して暴行を加え、公務執行妨害罪により懲役五月(一年間執行猶予)に処せられた前科があり、右事件について昭和五二年に通告処分を受けているのに、昭和五三年四月から本件犯行に及んでいること等の事情を考慮すると、特に被告人黒沼の本件刑事責任は重いといわざるを得ないのである。

しかし、被告人黒沼も現在では自己の軽率な行為を反省しており、今後は二度とかかる不祥事を起こさない旨述べ、幸い前記関与税理士の指導により金銭出納帳等の帳簿も備え付けられるに至っている。また、前期未納の諸税も今後その納付が期待できないわけではないので、これらの事情を考慮し、被告人らに対しては、主文掲記の刑を量定したうえ、被告人黒沼に対しては、今回に限り、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 原田敏章 裁判官 原田卓)

別紙(一) 修正損益計算書

(株)全国ビル管理経営協会

自 昭和53年4月1日

至 昭和54年3月31日

<省略>

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

(株)全国ビル管理経営協会

自 昭和54年4月1日

至 昭和55年3月31日

<省略>

別紙(三) 税額計算書

(株)全国ビル管理経営協会

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例